【サン・テグジュペリに学ぶ】未知の領域を飛ぶチームを率いる「人間中心」のリーダーシップ
「星の王子さま」の作者として知られるアントワーヌ・ド・サン・テグジュペリは、作家であると同時に、初期の航空黎明期を支えたパイロットでもありました。彼が生きた時代は、航空技術が未発達であり、郵便飛行は常に死と隣り合わせの非常に危険な任務でした。砂漠や山脈を越え、悪天候の中を飛行する中で、彼は技術的な課題だけでなく、孤独や恐怖と戦う自分自身の、そして同僚たちの内面に深く向き合いました。
現代のITプロジェクトリーダーもまた、常に変化し、予期せぬ困難に直面する「未知の領域」を飛ぶパイロットのようなものです。新しい技術、複雑な要求、タイトなスケジュールの中で、チームメンバーのモチベーションを維持し、最高のパフォーマンスを引き出すことは容易ではありません。サン・テグジュペリの経験と哲学から、現代のビジネスリーダーが学ぶべき「人間中心」のリーダーシップのエッセンスを探ります。
現場主義と共感から生まれる信頼
サン・テグジュペリは、自身が最前線で飛び続けた経験を通して、パイロットたちの抱える困難、不安、そして使命感を深く理解していました。彼は安全なオフィスにいるだけでなく、最も危険なルートを飛ぶことも厭いませんでした。
- 現場のリアリティを知る: 彼は単なる指揮官ではなく、同じ苦労を共有する仲間でした。この経験が、メンバーからの揺るぎない信頼を築く基盤となりました。現代ビジネスにおいても、リーダーが現場の課題やメンバーの日常的な苦労に関心を持ち、理解しようと努める姿勢は、信頼関係構築に不可欠です。特にリモートワークが進む中で、メンバーの見えにくい苦労にどう寄り添うかが問われます。
- 人間性への深い洞察: 彼の著作「人間の大地」には、過酷な状況下で露わになる人間の本質や尊厳が描かれています。これは、彼が単にタスクをこなす存在としてではなく、感情や思考を持つ一人の人間としてメンバーを見ていたことの証左と言えます。リーダーがメンバーのスキルや役割だけでなく、その人自身の価値観やキャリアへの想いに関心を持つことは、個々の内発的なモチベーションを引き出すことに繋がります。
困難を通じて築かれる「絆」の哲学
サン・テグジュペリは、共通の困難に立ち向かう中でこそ、人間は深く結びつき「絆」が生まれると考えました。飛行任務における相互扶助や連帯の精神を非常に重視しました。
- 共通の目標が生む連帯: 危険な郵便飛行という共通の、そして崇高な目標に向かう中で、パイロットたちは互いに支え合いました。現代のプロジェクトにおいても、単にタスクを割り振るだけでなく、プロジェクトのビジョンや社会的な意義をメンバーと共有することで、共通の目的に対する一体感と連帯感を醸成できます。
- 心理的安全性の基盤としての絆: 彼の哲学は、現代の組織論における「心理的安全性」の重要性を示唆しているとも言えます。互いを信頼し、困難な状況でも本音で話し、助け合える関係性があるからこそ、メンバーはリスクを恐れずに挑戦し、成長できます。リーダーは、失敗を許容する文化を育み、オープンなコミュニケーションを促進する役割を担います。
若手リーダーが取り入れるべき視点
サン・テグジュペリのリーダーシップから、特に若手リーダーが学ぶべき点は以下の通りです。
- メンバーの「人間」に関心を持つ: スキルセットやパフォーマンスだけでなく、彼らが何に悩み、何を喜び、どのようなキャリアを描きたいのか。日々の対話の中で、メンバーの人間的な側面に寄り添う時間を意識的に設けることが、信頼とエンゲージメントを高めます。
- 困難を乗り越える「絆」を育む: プロジェクトの成功だけでなく、チームが困難を共有し、共に乗り越えるプロセスそのものを重視します。チームビルディングや、目的を共有する対話を通じて、メンバー間の相互理解と助け合いの関係性を深めます。
- 仕事に「意味」を与える: 担当するタスクが、より大きなビジョンや社会にどう貢献するのかを明確に伝え、共有します。単なる業務遂行に終わらず、メンバー一人ひとりが自身の仕事に誇りとやりがいを感じられるようにサポートします。
まとめ
サン・テグジュペリは、極限状況下でチームを率いる中で、技術や効率だけでなく、人間の内面、信頼、そして困難を通じて生まれる「絆」の重要性を深く理解していました。彼の「人間中心」のリーダーシップは、変化が激しく、不確実性の高い現代ビジネス、特に技術の最前線で戦うITチームを率いるリーダーにとって、メンバーの心に寄り添い、真のチーム力を引き出すための重要な示唆を与えてくれます。自身のリーダーシップスタイルを見直す際に、サン・テグジュペリの哲学に触れてみてはいかがでしょうか。