リーダーの系譜

【聖徳太子に学ぶ】多様な意見をまとめ、組織の礎を築く「和と協調」のリーダーシップ

Tags: 聖徳太子, リーダーシップ, チームマネジメント, 十七条憲法, 多様性, 組織文化, 和, 議論

聖徳太子が示した組織運営の原理原則

現代のビジネスシーン、特に変化の速いIT業界において、多様なバックグラウンドを持つメンバーから成るチームを率いることは、多くの若手リーダーにとって大きな課題の一つです。メンバーのモチベーションを維持し、異なる意見をまとめ、共通の目標に向かって協働していくためには、強固なチームワークと効果的なコミュニケーションが不可欠となります。

今から約1400年前の日本において、国の基盤を築き、新しい価値観を根付かせようとした人物がいます。飛鳥時代の皇族であり政治家であった聖徳太子です。彼の行った政治改革や思想は、後の日本社会に多大な影響を与えました。中でも、彼が制定したとされる「十七条憲法」には、現代の組織運営にも通じる普遍的なリーダーシップのエッセンスが凝縮されています。

この憲法は法律というよりは、役人や人々に求められる精神的な指針、組織のあり方を示したものです。ここから、多様なメンバーをまとめ、組織の生産性を高めるための具体的な学びを得ることができます。

聖徳太子のリーダーシップに見る「和」の精神

十七条憲法の第一条には、「一曰、和を以て貴しと為し、忤(さから)ふこと無きを宗とせよ」(第一に、和を大切にし、逆らうことのないようにしなさい)とあります。これは単に争いを避け、皆が仲良くすることだけを意味するのではなく、組織全体が共通の目標に向かって調和を保ち、円滑に機能することの重要性を示唆しています。

現代のチーム運営において、「和」は「心理的安全性」や「エンゲージメント」といった概念に置き換えることができます。チームメンバーが互いに信頼し、安心して意見を述べ合える環境、そして組織の目標に対して主体的に関わる姿勢こそが、生産性向上やイノベーションの源泉となります。リーダーは、メンバー間の対立を適切に調整し、建設的なコミュニケーションを促すことで、この「和」を育む役割を担います。

意見を傾聴し、共に考える姿勢

第二条には、「篤く三宝を敬へ。三宝とは仏と法と僧也」(厚く仏・法・僧という三宝を敬いなさい)とあり、これは当時の新しい価値観であった仏教の受容を示しています。また、第十条には、「忿(いか)りを絶ち、悪(とみ)を棄て、人の違(たが)ふを怒らざれ。人皆な心有り。心各異(ことな)り。彼是(かれこれ)と。肯綛(ゆるさぬ)こと有り。彼善なりと雖も、我独り是れとせず。我善なりと雖も、彼に因りて悪し」(怒りを捨てて、人の意見が自分と違っても怒ってはならない。人は皆心があり、心はそれぞれ異なる。相手が正しいと思っても自分はそう思わないことがあり、自分が正しいと思っても相手から見れば間違いであることもある)と述べられています。

これは、多様な意見が存在することを認め、異なる視点を持つ相手に対して寛容であることの重要性を示しています。現代のリーダーにとって、チームメンバー一人ひとりが異なる考え方やスキルを持っていることを理解し、それを尊重する姿勢は不可欠です。一方的な指示ではなく、メンバーの意見に耳を傾け、共に考え、最適な解決策を見出すプロセスを重視することが、チーム全体の能力を最大限に引き出す鍵となります。

衆議を尽くす意思決定プロセス

第十七条憲法の第八条には、「群卿百寮、夙(つと)に朝(まゐ)りて遅く退でよ。公事(おほやけのこと)は終日尽くし難し。故、遅く退るは咎無きこと」(役人たちは早く出仕して遅く退出せよ。公務は一日では終わらない。だから遅く退出しても咎めはない)という、公務への献身を促す条文があります。これは一見、長時間労働の推奨のように見えますが、その背景には、第七条の「人各任有り、掌(つかさど)ること濫(みだ)れざれ」、つまり適材適所を説く思想があり、それぞれの役割に責任を持って向き合うことの重要性を示しています。

そして、聖徳太子の政治スタイル全体に見られるのは、「衆議(しゅうぎ)」、すなわち広く意見を集め、議論を尽くして物事を決定していく姿勢です。遣隋使の派遣や仏教の導入など、当時の日本にとって新しい試みは、多くの議論を経て進められました。現代のプロジェクト進行において、リーダーが独断で全てを決定するのではなく、チームメンバーや関係者の意見を収集し、多角的な視点から検討を行うことは、より質の高い意思決定と、メンバーの納得感・参画意識を高める上で非常に有効です。

現代のビジネスリーダーが学ぶべきこと

聖徳太子のリーダーシップから、現代の若手ビジネスリーダー、特にチームを率いる立場にある人々は、以下の重要なエッセンスを学ぶことができます。

  1. 「和」の追求: 単なる仲良しグループではなく、共通目標達成のための機能的なチームワークを重視する。メンバー間の信頼関係を築き、心理的安全性を高めることで、チーム全体のパフォーマンスを向上させます。
  2. 多様性の尊重と傾聴: 異なる意見や価値観を持つメンバーの存在を認め、それぞれの視点から学びを得ようとする姿勢を持つ。メンバーの意見を積極的に聞き、対話を通じて理解を深めます。
  3. 衆議を尽くす意思決定: 重要な決定を行う際には、独断を避け、チームメンバーや関係者からの意見を広く集めるプロセスを重視する。建設的な議論を通じて、より良い結論を導き出します。
  4. 明確な指針の共有: チームや組織が進むべき方向性や大切にする価値観を、メンバーに明確に示し、共有する(十七条憲法のような規範)。これにより、メンバーは自身の役割を理解し、主体的に行動しやすくなります。

これらのエッセンスは、チームメンバーのモチベーション維持、新しい手法の導入、そしてリーダー自身のキャリアパス形成においても、困難を乗り越え、成長を遂げるための羅針盤となり得ます。歴史上の偉人の知恵に学び、自身のリーダーシップスタイルに取り入れていくことで、より強固でしなやかなチームを築き上げることができるでしょう。

この記事から学べるポイント:

これらの学びを日々のチームマネジメントに活かし、自身のリーダーシップを磨いていくことが、現代の課題を乗り越える力となるはずです。